ジャズの名盤入門 (講談社現代新書)2005年9月刊の本だが、私の手元にあるジャズ入門書は本書だけだ。しかし今でも時々手にとって、名盤にこういう聴き方、つぼがあるのか気づかせてくれ、かつ名盤を通じて有名ジャズ・ミュージシャンのキャリア、ひいては50年代以降のジャズの流れを辿ることができ、初心者にもジャズ上級者にもお薦めの良書だ。内容は古くない。そもそも80年代冒頭のジャコ・パストリアスのワード・オブ・マウスとウィントン・マルサリスのマルサリスの肖像までしか紹介していないから。50年代、60年代、70年代以降の3つのパートで厳選した50枚を新書見開き4頁で解説する。基本的に1ミュージシャン1作品だが、マイルス、コルトレーン、ビル・エヴァンス、キース・ジャレット、オーネット・コールマンの5人だけは2作品を採り上げる。マイルスならカインド・オブ・ブルーとビッチェズ・ブリューのように。人と作品の選択については異論もあるだろうが、概ね妥当だ。本書より薄く紹介作品の少ないジャズ名盤評論集があるのか私は不知だが、本書が最もコンパクトな部類に入ることは間違いないだろう。
私が本書を購入した理由は、キースのケルン・コンサートを選んでいるから。ケルン・コンサートをジャズ喫茶で聴いた記憶がない。また、ジャズ名盤評論集でキースのピアノ・ソロを選ぶならソロ・コンサートとなりがちだ。何かオーソドックスなジャズ・ファンがケルン・コンサートを口にするのははばかれる空気がある。しかし、この「即興」作品の美はなぜジャズの枠を超えて普遍的なのかは、しっかり解析し、正当に評価されるべきだ。美しいものは美しいと言いきる著者の感性が信じられるからこそ、私にとって本書は最良・最軽量のジャズ評論集だ。
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