英日日英 プロが教える基礎からの翻訳スキル体操競技に「技術点(technical merit)」と「芸術点(artistic impression)」があるように、翻訳という仕事にも、パターン化された「技術項目」と、それを土台に磨き上げる高度な「芸術性」があるようだ。 本書は、シェイクスピア研究の第一人者であり、達意の翻訳家として知られる著者が、「技術項目」に限って解説を施した翻訳学習の名著だ。本書で著者が採用した方法は、学習英文法の枠組みに沿って英文を分解し、分解してできた項目ごとに、訳文作成のルールを提示していくという画期的なもの。全部で44のセクションに分かれた、システマチックで学習性に富んだそのノウハウは、「翻訳英文法」という呼称で、翻訳学習者の間ではつとに評価が高い。 この方法の信頼性の高さについては、多くの関連書の存在(『翻訳英文法徹底マスター』、『翻訳英文法トレーニングマニュアル』―― いずれもバベル・プレス刊など)や、これに言及するプロ翻訳家が多いことからも容易に推察できるが、定評を得た一番の理由は、やはり「英文法」という枠に注目したアイデアの斬新さに尽きる。つまり、本書には学校英語に慣れた者に、「翻訳」へ興味をかき立てる、啓蒙書としての側面もあるということだ。 この魅力は「マニュアルの向うのあるもの」と題された<あとがき>の中で存分に発揮されている。公式による技術の後に何が来るか。とくと味わってみてほしい。(玉川達哉)
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